読書のススメ 第8回 『虎よ、虎よ!』
今回紹介するのは『虎よ、虎よ!/Tiger! Tiger!(原題)』(1978)です。
元々1956年発表の作品で、1978年にハヤカワSFから出版されていましたが、これは2008年に新装版として出たものです。
寺田克也氏のデザイン、イイです。
生頼範義氏の旧版デザインも武骨でイイです・・・それにしても、古い作品に多いですが加藤直之氏とか武部本一郎氏とかの表紙ってイイですよね〜。
最近のは何故?と思う表紙もあったりするので・・・
余談ですが、既に絶版のサンリオSF文庫とかは中古市場でもなかなか見かけず、ベラボーに高い作品もあります。
異装版合わせると201冊?あるそうですが今からコンプリートしようとするのは無理でしょう。
初期ハヤカワSF物とかも難しいかも・・・因みにハヤカワSFは現時点で通番1800超えですし。
どうでもいいコレクター気味の意見です。
本作はSF作品としては常に上位にランキングされる名作中の名作で、元々の題名から『我が赴くは星の大海/The Stars My Destination(原題)』とも呼ばれています。
著者はアルフレッド・ベスター(Alfred Bester)で、現存する中で最も歴史の古いSF賞であり、SF界ではもっとも権威のある賞と言われているヒューゴー賞の第一回受賞者で、受賞作はこれまた傑作の 『分解された男(破壊された男)/The Demolished Man(原題)』です。
ベスターの長編は数少なく5作?ぐらいですが、前述の2作で殿堂入りのようなものです。
SF作品としては、本作を超える作品は50年以上経った現在でも無いといっても過言ではないほどの作品で、素晴らしいの一言です。
(あくまで個人的見解デス)
本作はワイドスクリーン・バロックと呼ばれるSFのジャンルに分類されますが、あまり一般的ではないようです。
大筋は主人公ガリヴァー・フォイルの復讐劇で、乗船していた宇宙船『ノーマッド』が爆撃を受け漂流し、孤独の中、救出を待ち続け170日・・・
プレスタイン財閥所有のV級輸送艇『ヴォーガ』を発見したフォイルは救助信号を出しますが、なんと無視されます!!
しかし、この件がフォイルに強靭な、確固たる、恐るべき意志を植え付けるのです。
その後のフォイルの行動は・・・というストーリーです。
復讐劇というフレーズからピンときた人、そうです。
かのアレクサンドル・デュマ(Alexandre Dumas)の『モンテ・クリスト伯/Le Comte de Monte-Cristo(原題)』をモチーフにしています。
『モンテ・クリスト伯(別名:巌窟王)』は小説という媒体の中でも傑作中の傑作で、図書館とかにはよく置いてある作品なので読まれた方も多いかと思います。
これだけで傑作かどうか?・・・分かる人には分かります。
題名の由来はウィリアム・ブレイク(William Blake)の詩『虎』(The Tyger) の冒頭の『虎よ! 虎よ! あかあかと燃える』 (Tyger, Tyger, burning bright) です。
道が逸れますが、このブレイクは多方面に影響を与えた詩人でもあります。
本作に登場する設定・ガジェットがこれまた素晴らしく、ジョウント(Jaunte)と呼ばれる架空の超能力が描かれています。
ジョウントは『精神の力によって別の場所に瞬間移動すること』で、所謂テレポーテーションですが、後発の様々な作品でも見られるほど衝撃的でした。
ジョウントは生命の危機に瀕した人間が瞬間移動した現象から研究され、脳の持つ機能(人間が持っている能力?)として描かれます。
つまり、訓練によって習得できるのです。
しかし、この大発見が社会的混乱を巻き起こします。(ジョウントによる犯罪増加など・・・)
ジョウントは、現在の場所と移動先の場所が正確に想像出来て、尚且つ精神集中が必要であると言うことです。
無理やりのジョウントは、・・・死にます。
もしも人間の脳機能が100%使用可になったら、人間はジョウント出来るのか!?
また、石ノ森章太郎氏の漫画『サイボーグ009』で有名になったであろう加速装置も本作です。
設置場所も奥歯でそのままデスネ・・・『かそくそ〜ち!!!』って叫んだものです。勿論加速はしませんが・・・
また本作品中には、道徳、思想といった観念的、哲学的な要素もあり、思い浮かぶのはニーチェの超人思想的でしょうか?
あくまでイメージで、小難しくはないですし、そこそこの厚さがありますが、サクッと読めると思います。
噂ですがユニバーサル映画が映画化権を取得しているようで、実現すれば楽しみです。
現在、ベスター作の『ゴーレム100』を読んでいますが、訳ワカリマセン。
読み切れるか不安です。
これを読めば、ジョウント使いになりたい!と思うハズ。 (イトー)
出典:『虎よ、虎よ!』 早川書房(ハヤカワSF文庫) アルフレッド・ベスター(著) 中田 耕治 (著) 1978年